なにかが見えてくる
おじさんの戯言 (たわごと)
十善戒

先日の秋分の日におじさんはお墓参りに行ってきた。おじさんは年2回お彼岸の時期に家族と墓参りに行くことにしている。世間ではよくお盆に墓参りに行くようだが、お盆には先祖の霊が家に帰ってくるのだから、家に居てご先祖様を迎えてやらなければならない、とおじさんは言う。確かに理屈である。

ところで、墓参りを済ませ、本堂に手を合わせて帰ろうとしたとき、一つのリーフレットが目に入った。自由に持って帰っていいように置かれている。そのリーフレットには十善戒というものが紹介されていた。十善戒とは「十の善き戒め」で、私たちが毎日の生活の中で守るべき教えであると記されている。その十の教えを守ることによって、私たちの心を清め、仏さまの世界に導いてくれる教えなのです、とも記されていた。

十善戒 (じゅうぜんかい)
・ 不殺生 (ふせっしょう)   むやみに生き物を殺さない
・ 不偸盗 (ふちゅうとう)   盗みをしない
・ 不邪淫 (ふじゃいん)   男女の道を外さない
・ 不妄語 (ふもうご)   嘘をつかない
・ 不綺語 (ふきご)   心にもない綺麗ごとを言わない
・ 不悪口 (ふあっく)   悪口を言わない
・ 不両舌 (ふりょうぜつ)   二枚舌を使わない
・ 不慳貪 (ふけんどん)   欲ばらない
・ 不瞋恚 (ふしんに)   憎むことをしない
・ 不邪見 (ふじゃけん)   まちがった考え方をしない

なるほど、この「十の善き戒め」を守って毎日生活していれば、心が清められ、文字通り、清らかな人間になり、仏さまに一歩も二歩も近づけるのかあ..... と言っても、元からおじさんはこのような戒めにそむくような事は普段から一切していない。おじさんは根っからの善人なのである。ところが、このような戒めを目にすると、改めて感じ入るのがおじさんなのだ。もっとも、おじさんは仏さまに近づくどころか、もう今でも十分ほとけであり、皮肉なことに、ホトケになる日もそう遠くないのだが.....

ところで、仏教にこのような十の戒めがあるのを迂闊にも知らなかったおじさんだが、キリスト教にはあるのは知っていた。知っていたといっても、昔チャールトン・ヘストン主演の「十戒(The Ten Commandments)」という映画を見たから知っていただけのことなのだが..... これは、モーセ[モーゼ]がイスラエルの民を率いてエジプトを出る際、神がシナイ山上でモーセ[モーゼ]を通してイスラエルの民に授けたとされる十か条の戒めで、「モーセの十戒(じっかい)」とも言うらしいが、それをおじさんはずっと「モーゼの十戒 (じゅっかい)」と思い込んでいたのだから、恥ずかしい限りである。

Ten Commandments (十戒)   (下の日本語は日本聖書協会訳による)
・ You shall have no other gods before me.   あなたはわたしのほかに、なにものをも神としてはならない
・ You shall not make for yourself an idol.   あなたは自分のために刻んだ像を造ってはならない
・ You shall not make wrongful use of the name of your God.   あなたは、あなたの神、主の名をみだりに唱えてはならない
・ Remember the Sabbath and keep it holy.   安息日を憶えて、これを聖とせよ
・ Honor your father and mother.   あなたの父と母を敬え
・ You shall not murder.   あなたは殺してはならない
・ You shall not commit adultery.   あなたは姦淫してはならない
・ You shall not steal.   あなたは盗んではならない
・ You shall not bear false witness against your neighbor.   あなたは隣人について偽証してはならない
・ You shall not covet your neighbor's house.   あなたは隣人の家をむさぼってはならない

こう見てみると、洋の東西を問わず、戒めとして同じような事柄が述べられているのがわかる。モーセの十戒のうちの四戒までは絶対的な存在としての神に関する記述であるが、残りは十善戒と重なる記述が多くある。例えば、You shall not commit adultery. は「不邪淫」、You shall not steal. は「不偸盗」、You shall not bear false witness against your neighbor. は「不妄語」や「不悪口」、You shall not covet your neighbor's house. は「不慳貪」というのにあたるだろうか。もう一つ、You shall not murder. は強いて言えば、「不殺生」にあたるだろうが、モーセの十戒では「人」を殺すことに関して言っているのに対して、十善戒では「生きとし生けるもの」すべてを対象に言っているという違いがあるようだ。

このように見てくると、我々が生きていくなかで、人として守らなければならないことというのは、どの地においてもほとんど共通しているのだということが、おじさんにとってとても新鮮に思われたのである。人は住む地によって多少の違いはあるが、それはあくまで表面的なものであり、奥深いところでは、どの人間も皆同じものを求められ、それに応えて生きている同じ人間なのである。おじさんはどういうわけか、いやに感じ入っているのである。
(2008)


戻る